TechとPoemeの間

Qiita に書かないエンジニア業の話

小さな変化を生み出すときの「エバンジェリスト」の小さな自覚

「それまでなんとなく,特段良いわけではないが,とりあえずうまく回っている」ような組織に新しい「変化」を起こすことはちょっと怖かったりする.

労務管理の文脈で言えば,それまで常態化していた長時間労働のマインドを180°変えて生産性を上げて勤務時間を短くしようとしたり,
古くから使われている比較的生産性の低いプログラミング言語でのソフトウェア開発を脱却して,モダンでイケてるプログラミング言語を導入しようとしたり,
もっと一般的にビジネスの文脈で言って,それまで経験や知見のない分野で新規事業を立ち上げてみたり.

その是非はそれぞれの文脈において語られることなので置いておいて,その「変化」を導く立場は,総じていつでも大変なものだと思う.

そもそも自分が正しいことをやっているのか自信を持てなくなることもあるし,その変化の向かう先にあるものについて,自分だって本当にマスターしたり理解しているわけでもない. ただ,「変化」を導くことの一番の大変さは,周囲の人々の認識や気持ち,習慣を変える大変さだと思う.

周囲の人々がその変化の関心を持っていなかったり,必要を感じていなかったり,もしくはその変化にそれまでいい思い出がないから,少し敵対心を持っていることもあるかもしれない.
それこそ,先日の Regional Scrum Gathering Tokyo 2018 で行われた Open space technology では,そんな「変化を起こしたいけれどもどうしたらいい?」という悩みが元になったディスカッションテーマもたくさんあった.

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例えば,それまで混沌とした開発をしていた組織に,スクラムアジャイルの導入という「変化」を起こそうとする.そのとき,変な反骨心を買って反発を呼んだり,自分の変化の起こし方がうまくなくて失敗してしまった時,周囲の人達に,「たまたま,彼があの状況でうまくできなかった」と理解されたり評されたりするのは,すごい幸せなことだと思う.恐ろしいのは,「あの変化は起こすべきじゃなかった」と言われること.スクラムで言えば「ほら見たことか,スクラムなんて導入するのが間違いだったんだ」と言われることだ.
どこかのアイドルの「私のことは嫌いになっても,AKB48 のことは嫌いにならないでください」というセリフがどんな背景で発せられた言葉なのかは理解していないけれど,まさしくそんな言葉も言いたくなるような状況だなぁ,と思う.

その「変化」を主導する立場の人にとって,ちょっとした「エバンジェリスト」の自覚って大事なんじゃないのかな,という気がしている.まさに,そのような「変化」の現場では,その変化を先導する役割はまさに「変化」そのものなのだ.自分が彼らの「変化」をうまく導けなかったら,それはまさしくその「変化」自体にダメだったという烙印を押されかねないという,大げさに言えば覚悟みたいなものは持つべきなんじゃないのかなという気がしている.

エバンジェリスト」とは,もともとの意味は「伝道師」である.まさに,その「教義の伝道」に失敗した時,その宗教自体が「良くないもの」と捉えられかねない.自分の評判が落ちることはまだしも,その変化自体が意味のないものだと思われることは,その「変化」を信じる人にとっても痛手であるという意味で影響する範囲が大きいということを何処かで感じているべきなんじゃないのかな,とか思うわけである.


「組織」の「変化」と言えば,真っ先に Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン という本が浮かぶ人もいるだろう.この本の48のパターンの1つ目は,まさに「エバンジェリスト」である.自分がその「変化」に情熱を傾け,自分自身を突き動かす,というパターンが1番最初に書かれている.なによりも「変化」を主導するのに,その「変化」を自分ごとにする情熱こそが一番の原動力であるというメッセージが,48パターンの1つめというところにあるのかなと思う.
そして一方で,このパターンの注意点もこの本には書かれている.引用したい.

一方で、あなたが新しいアイデアに対して情熱的になりすぎると、周囲の人が引いてしまうリスクがある。情熱をコントロールし,決して我を忘れてはならない。(中略) あなたが身につけるべき重要な能力の一つが、忍耐強さと性急さの両方を同時にもつ能力かもしれない。

エバンジェリスト」を中心に置いた考え方をすれば,この書籍に書かれた残りの47のパターンは,エバンジェリストの情熱が暴走しすぎないために,忍耐強く「変化」を推し進めるためのテクニックなのかもしれないな,と思った次第.

Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン

Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン